どこにでも持ち運べるノートPCは便利ではあるものの、オフィスや在宅で業務をする際に、モニターの大きさが課題の一つとして挙げられる。モニターサイズの小さなノートPCは、一度に表示できる情報量が限られるため、ウィンドウを切り替えたり、頻繁にスクロールをしたりする必要がある。こうした作業を何度も繰り返すのは、業務効率の低下やストレスの発生にもつながっていく。そこで取り入れたいのが、画面の表示領域を拡大できる外付けモニターだ。今号では、企業のモニターに関する課題を解決するさまざまな製品を紹介する。
ノートPCやPCモニターのFPD需要がハイブリッドワーク定着により変化
ノートPCやタブレットに搭載されるディスプレイに加え、前述の端末と接続して使用するPCモニターなど、ディスプレイはもはや生活必需品といっても良いだろう。これらのIT用FPD(フラットパネルディスプレイ)の市場はコロナ禍で大きく伸長した。本記事ではその背景とともに、同市場のグローバルでの動向と変化するサイズ別の出荷数量について、米調査会社のDSCC(Disp lay Supply Chain Consultants)の田村喜男氏に、最新の調査結果をベースに話を聞いた。
有機EL搭載のハイエンドPCが増加
IT用のFPDの出荷数量は、コロナ禍で大きく変化した。感染拡大を防止するため、多くの企業で在宅勤務やハイブリッドワークが推奨されたことに伴い、特にノートPC向けのFPDの出荷数量が大きく伸長した。ディスプレイ業界のサプライチェーンを対象に調査を行う米調査会社のDSCC アジア代表 田村喜男氏は「IT用のFPDはこれまで平均してそれぞれ1億5,000万枚から1億9,000万枚程度の出荷数量でしたが、コロナ禍で大きく上振れをし、ノートPC用やタブレット用パネルの出荷は2億枚を超えました。メインで仕事をする場所が会社ではなく自宅になったことや、週に何度かは出社する必要があることなどから、持ち運びが容易なノートPCの需要が急激に伸びたことが挙げられます」と指摘する。
IT用FPDの出荷数量が最も伸びたのは2021年で、ノートPC向けFPDの出荷数量は2億8,000万枚以上となった。しかし2021年をピークに出荷枚数は減少しており、2024年現在はコロナ禍前の出荷枚数(約2億枚)に戻っている。
FPDは大きく分けて、LCD(以下、液晶)とOLED(以下、有機EL)に分けられる。市場全体の9割が液晶を占めている一方で、ノートPCとタブレット向けのFPDは有機ELの占める割合が上がっているという。特に2024年は有機EL搭載のiPad Proが発売されたことで、昨年と比較して2桁成長を記録している。
ノートPCは2026年までに有機EL搭載モデルが増加する見込みだ。有機ELはバックライトが必要な液晶と比較して素子自体が発光するため、液晶と比べて特に黒の色がはっきりと表現できる。またバックライトが不要であるため、本体を薄く製造できる点もメリットとして大きい。一方で有機ELは製造コストが高く、ノートPCやタブレットに搭載される場合もハイエンドモデルに限られる。こうしたコスト面の課題から、ノートPCやタブレットと比べてサイズの大きなFPDが必要となるPCモニターでは採用されるケースが少ない。
27インチクラスがトレンドに
それでは、PCモニターに採用されることの多い液晶のトレンドはどうなっているのだろうか。サイズ別に見ていこう。
DSCCでは液晶サイズを19.5インチ、21.5インチ、23.8インチ、27インチ、32インチ、43インチの六つに大別している。ボリュームゾーンとなっているのは23.8インチで、2019年から2024年まで、43~46%の間で推移している。次いで多いのが21.5インチだが、27%となった2018年から右肩下がりの傾向が続き、2024年には11%となっている。その半面、伸長の傾向にあるのは27インチだ。2018年では18%だった27インチは、その後右肩上がりにシェアを伸ばしており、2024年には33%となっている。2025年は36%、2026年は39%となる予測であり、2027年には42%と、37%の23.8インチよりも高いシェアを獲得する予測となっている。
このようなモニターサイズのトレンド変化について、田村氏は次のように指摘する。
「背景にあるのはハイブリッドワークの浸透です。現在の業務用PCのスタンダードは、オフィスでも自宅でも使えるノートPCです。その際、ノートPCのディスプレイサイズではExcelファイルなどを表示する際に、スクロールする手間が増えます。外付けのPCモニターと接続し、大画面で作業ができればそうした手間も削減できるため、サイズの大きなモニターが好まれる傾向にあるようです」
上記の理由に加えて田村氏は「供給のロジックもあります」と指摘した。田村氏によると、画面の大型化はテレビが先行して進んでいる。現在はテレビ用パネルの数量はほぼ頭打ちとなっており、これ以上の数量の伸びが見込めなくなっている。それに伴い、これまで大型のディスプレイに投資してきた中国の工場などの生産能力に余剰が生じるのを回避するためには、パネルの生産面積を拡大していく必要がある。「ディスプレイの生産面積は生産枚数×平均サイズで決まりますが、枚数はこれ以上大きく増えない以上平均サイズを増やすしかない。そのためディスプレイの1枚当たりのサイズが大きくなっていき、それによって価格が下がっていきます。このトレンドはテレビ用パネルだけでなく、モニター用パネルでも同様の流れになっています。PCモニターはテレビと同様に据え置きなので、ノートPCなどと異なり可搬性面でのサイズの制約がありません。価格が同等でサイズが大きいのであれば、ユーザーはそちらのディスプレイを選択しますので、結果的にモニターのサイズが大きくなっていっているのです」と田村氏は語る。
モニター用LCDサイズ別出荷数量推移
mini LED 搭載液晶に注目が集まる
こうしたモニターサイズの大型化は、グローバルでのトレンドを反映して日本でも同様の流れが起こっている。テレビの場合は、日本はグローバルと比較してリビングのスペースが狭いため、世界的に見ても小さなサイズが好まれるが、PCモニターが23.8インチから27インチにサイズアップしても、部屋の広さには大きく影響しないため、地域性による影響はあまり出ていないようだ。
モニターサイズの大型化に加えて、ディスプレイの高解像度化も進んでいる。ボリュームゾーンはフルHDで、全体の75%程度だ。次いで増えてきているのがQHDであり、12%程度までシェアを伸ばしている。QHDよりも高い解像度である4Kは2~3%だ。フルHDのシェアが徐々に減少する一方で、QHDのシェアが徐々に伸長しているという。4Kは動画や画像と言った高精細なコンテンツを表示する用途に向いている一方で、ビジネスシーンにおけるExcelやWordなどのファイルを表示するにはオーバースペックといえる。PCモニターサイズのボリュームゾーンが27インチに移行してきており、4K解像度でなくても十分なコンテンツ表示が可能であることも、PCモニターの4Kシェアが伸びていない背景として挙げられる。
また、新たなトレンドとして、mini LEDを採用した液晶モニターの出荷数量に増加傾向が見られるという。液晶は前述した有機ELと異なり、バックライトで液晶が光ることで白と黒のメリハリを表現している。通常の液晶の場合、このバックライトを全画面で制御しているため、特に暗部の階調がきれいに表現しにくかった。mini LEDは従来と比較して小さなLEDによって、バックライトの分割数を増やし、細かなコントラストの制御を行いやすくすることで、有機ELに近い高精細なコンテンツ表示を可能にする技術だ。昨今ではAppleのMacBook Proなど一部のハイエンド端末に採用されており、今後一定の存在感を示していくだろうことが指摘された。