マルチクラウド 担当者コラム
マルチクラウド・Azure
Azure 第35回『Azure Arc と Windows Server 2025 従量課金ライセンス』
Azure Arc
Azure Arcは以前の記事『Azure Arc でオンプレミスサーバーを管理・監視』でも紹介している、実行される場所を問わず仮想マシンやコンテナー実行環境(Kubernetes)・データベースを一元的に管理・監視できる Azure 上のマネージドサービスです。

管理・監視の対象となるリソースの場所は、オンプレミスの物理サーバーや仮想化環境、パブリッククラウドやプライベートクラウドなどの、幅広い環境に対応しています。
実行するワークロードや利用するデータに応じて、さまざまな環境を使い分けるマルチクラウド・ハイブリッドクラウドで、管理・監視を一元化して効率よく行いたい場合に適したソリューションが Azure Arc です。
Windows Server 2025の従量課金ライセンス
Windows Server の最新バージョンとして、2024年11月にリリースされたのが Windows Server 2025 です。Windows 11 で採用された仮想化ベースのセキュリティ(VBS)や、Credential Guard などを含むさまざまなローカルセキュリティ機能が強化されている他、Active Directory ドメインサービスでもセキュリティの強化やサービスの堅牢化・最適化のための改善が行われています。また Hyper-V のパフォーマンス向上、最新の NVMe ストレージへの最適化など性能面での向上も図られています。
さらに注目なのが、リテール版・ボリュームライセンス版・OEM版といった従来の買い切りライセンスに追加された、従量課金ライセンスです。従量課金ライセンスは買い切りライセンスと異なり、実際に Windows Server 2025 のインスタンスをライセンス認証して実行した時間に応じて課金されるので、コンピューティングのリソースに対する需要変動の大きなオンプレミスのシステムで、サーバーのスケーリングが柔軟に行えるようになります。
例えばオンプレミスの環境で Windows Server Standard エディションで2インスタンスを実行しているシステムで繁忙期の2~3か月間のみスケールアウトしてインスタンス数を増やしたい場合、従来の買い切りライセンスでは Windows Server Standard ライセンスを買い足すか、Windows Server Datacenter にアップグレードする必要がありました。

これに対して従量課金ライセンスを利用すると、繁忙期の間のみ従量課金のインスタンスを増やし、繁忙期が終了したらインスタンス数を元に戻して課金を終了できます。これにより、パフォーマンスとコストを最適化することができるでしょう。

また、Linux サーバー上の仮想化環境で Windows Server を実行したい場合にも、容易に必要なインスタンス数を実行することができます。

従量課金ライセンスは、Windows Server を Azure Arc に接続することでライセンス認証と課金管理を行います。
従量課金ライセンスと買い切りライセンスの違い
従量課金ライセンスが買い切りライセンスで大きく異なるのは、以下の2点です。
・従量課金ライセンスには仮想化インスタンスの実行権がありません
・従量課金ライセンスの Windows Server へのアクセスには Server CAL が不要です
これを含めて、両者の違いを以下の表にまとめています。
買い切り | 従量課金 | |
---|---|---|
エディション | Standard と Datacenter | Datacenter 相当 |
支払い | 購入時に一度だけ(SA は延長ごとに課金) | 稼働時間に応じた従量課金をAzure 料金として支払い |
課金基準 | 物理コア数により算出最低16コアライセンス必要 | 物理コアごとの課金 |
仮想化インスタンス実行権 | Standard は2インスタンスDatacenter は無制限 | なし |
Azure Hybrid 特典 | あり | なし |
サーバー CAL | 必要 | 不要 |
購入方法 | リテール / OEM / ボリュームライセンス | Azure Arc を通じたオンラインサインアップ |
ライセンス認証 | プロダクトキーによる KMS / MAK / Active Directory 認証 | Azure Arc による認証 |
Azure サブスクリプション | 不要 | 必須 |
物理サーバー上の Windows Server に従量課金ライセンスを適用することも可能ですが、仮想化インスタンスの実行権が無いので、追加のインスタンスが必要となる場合はその分も従量課金ライセンスで実行することになります。
買い切りライセンスと従量課金ライセンスのコスト比較では、従量課金ライセンスではサーバー CAL が不要である点も考慮に入れる必要があります。従量課金ライセンスの Windows Server と Azure 仮想マシンの Windows Server だけを利用する場合は、サーバー CAL が不要です。
従量課金ライセンスの利用方法
従量課金ライセンスは、Windows Server をリテール版のインストールメディアでクリーンインストールした場合のみ有効にできます。ライセンス認証済みのWindows Server を従量課金ライセンスに変更することはできません。
Windows Server 2025で従量課金ライセンスを有効にする手順を以下に示します。
-
Azure ポータルにサインインして、従量課金ライセンスのサーバーを接続するためのリソースグループを作成します。
従量課金ライセンスの Windows Server は Azure Arc でライセンスと課金が管理されるため、サーバーのリソースを格納するリソースグループを用意します。
既存のリソースグループも利用できますが、管理上新しいリソースグループを作成した方が良いでしょう。 -
Azure 側でリソースグループが用意できたら、オンプレミスで Windows Server 2025 のインストールを開始します。サーバー(物理サーバー/仮想マシン)をインストールメディアから起動します。
-
以下の画面が表示されます。[次へ] をクリックしてインストールを開始します。
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次に以下の画面に進みます。ここで [Pay-as-you-go] を選択します。
-
次はインストールするエディションの選択です。前述のように従量課金では Standard と Datacenter の差が無いので、Datacenter を選択します。
デスクトップエクスペリエンスなしの場合は、後で行う Azure Arc への接続作業を PowerShell で実施します。
PowerShell での作業については以下を参照してください。 -
この後は通常通りセットアップと初期設定を進めます。
-
初期設定を行ってデスクトップに進むとサーバーマネージャーが起動し、以下のようにポップアップが表示されます。
「または、Azure Arc をお試しください」の [セットアップの起動] をクリックして、Azure Arc への登録を開始します。 -
Azure Arc Setup が起動するので、画面の指示に従って進めます。
-
Azure Connected Machine エージェント のインストールが完了すると、以下の画面になりますので、[構成] をクリックします。
-
Azure Arc 構成が表示されますので、画面の指示に従って [次へ] をクリックします。
-
[Azure にサインイン] で、Azure に管理者権限のあるアカウントでサインインします。
※管理者権限はリソースグループに対する共同作成者または Azure Connected Machine のオンボード ロールが必要です -
以下を指定します。
・接続先のテナント
・サブスクリプション
・リソースグループ
・Azure リージョン
・ネットワーク接続
「1.」で作成したリソースグループと、そのリージョン・サブスクリプションを選択してください。
ネットワーク接続をプロキシ経由とする場合の構成については以下を参照してください。 -
ライセンス方法の選択画面が表示されます。[従量課金制] を選択して [次へ] をクリックします。
-
これで従量課金ライセンスの構成は終了です。[終了] をクリックます。
-
以上の手順でサーバーを Azure Arc に従量課金ライセンスとして接続すると、Azure 側でのリソース作成とライセンス認証の手続きが行われます。
※手続きの完了まで10分程度の時間がかかります。
Azure での管理
Windows Server 2025 の従量課金ライセンスを構成すると、サーバーは「Azure Arc 対応サーバー」として Azure に登録されます。
Azure Arc 対応サーバーで行えることの全体像は、以前の記事(『Azure Arc でオンプレミスサーバーを管理・監視』)を参照してください。
サーバーとライセンスの確認
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Azure Arc に接続した Windows Server は、Azure ポータルの [Azure Arc] で確認することができます。
※ポータルのトップページで見つからない時は、画面上部の検索欄で Arc を検索してください。
-
[Azure Arc] をクリックして開き、画面左のナビゲーションで [すべての Azure Arc リソース] を選択すると、ディレクトリ内のすべての Arc に接続しているリソースが表示されます。
上記で従量課金ライセンスに構成した Windows Server(WIN-AUG628J1OC9)が表示されていることが確認できます。 -
またナビゲーションで [Azure Arc リソース] を展開して [マシン] をクリックすると、Azure Arc 対応サーバーの一覧が表示されます。
-
管理したいサーバー名をクリックすると、Azure Arc 対応サーバーを管理する画面になります。
[ライセンスの種類] が「従量課金制、ライセンスあり、有効」となっていることが分かります。 -
ストレージの選択は以下のような意味を持ちます。
またこの画面の左側のナビゲーションで [ライセンス] を展開して [Windows Server] をクリックすると、ライセンスについての詳細画面が表示されます。
Windows Admin Center の利用
従量課金ライセンスの Windows Server は、Azure Arc から Windows Admin Center に接続して管理することができます。
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Azure Arc から Windows Admin Center を利用できるのは、ソフトウェアアシュアランス(SA)のあるライセンスまたは従量課金ライセンスの Windows Server です。
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ライセンスの確認と同様の手順で、Azure ポータルで Azure Arc に接続した従量課金ライセンスの Windows Server の画面を開きます。
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画面左側のナビゲーションで [Windows の管理] を展開し、[Windows Admin Center] をクリックします。
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画面中央の [設定] をクリックします。
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オンプレミスのサーバーが Azure と通信するために使用するポート番号の設定画面が表示されます。特に変更する理由が無ければ、そのまま [インストール] をクリックします。
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Windows Admin Center VM 拡張機能が Windows Server にインストールされます。
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インストールが完了すると、画面に [接続] ボタンが表示されますが、上部に「接続するには、Windows Admin Center 管理者ログイングループの一員である必要があります。アクセスを管理するには、クリックします。」というメッセージが表示されている場合は、まずメッセージ部分をクリックします。
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サーバーへのアクセス制御の画面に切り替わりますので、[ロール割り当ての追加] をクリックします。
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[ロール割り当ての追加] 画面が表示されますので、[職務ロール] の中の “Windows Admin Center Administrator Login” をクリックして選択し、[次へ] をクリックします。
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[ロール割り当ての追加] が表示されます。[メンバーを追加する] をクリックします。
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Admin Center を利用するユーザーを検索して選択し、[選択] をクリックします。
ここでは自分自身(Azure ポータルにサインインしているユーザー)を選択しています。 -
ユーザーが追加されたことを確認して、[レビューと割り当て] をクリックします。
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設定内容を確認し、[レビューと割り当て] をクリックします。
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[ロール割り当てが追加されました] と通知されれば、ロールの割り当ては完了です。
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画面左側のナビゲーションで Windows Admin Center にアクセスすると、[接続] がクリックできるようになっていますので、クリックします。
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少し待つと、オンプレミスのサーバーの Windows Admin Center が表示されます。
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ここからは通常の Windows Admin Center と同様に Power Shell の実行、サービスの管理、リモートデスクトップ接続、イベント確認やレジストリの表示・編集、プロセスの管理、Windows ファイアウォールの管理など、さまざまな管理と監視のタスクを実行できます。
※以下はサービスの管理画面です。
このように Azure Arc から Windows Admin Center を利用すると、VPN などの閉域網接続なしでオンプレミスのサーバーの管理・監視が行えるようになります。
Azure Arc の Windows Admin Center 機能についてさらに詳しくは、以下を参照してください。
まとめ
Azure Arc と Windows Server 2025 の組み合わせで従量課金ライセンスが利用でき、Windows Server を利用する際のライセンスにさらなる柔軟性が加わりました。追加のライセンスが必要になるためサーバーのスケールアウトに躊躇するようなケースは、従量課金ライセンスで問題を解決できる場合があります。また短期間のみ稼働させるサーバーは従量課金ライセンスでコストダウンできるでしょう。
さらに従量課金ライセンスのサーバーで利用できる Azure Arc のさまざまな機能でオンプレミスのサーバーをクラウドから管理・監視できるため、運用の手間とコストを削減できます。
Windows Server 2025 従量課金ライセンスの利用には Azure サブスクリプションが必要となります。
Azure の利用の開始やサブスクリプションの購入、Windows Server 2025 導入のご相談は、お気軽に当社担当営業までお声がけください。
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