各メーカーが提案する最新PCを取り上げ、その特長や強みをご紹介

マイクロソフトが2024年5月にCopilot+ PCの要件を発表してから約2年。Copilot+ PCの企業導入はどこまで進み、各機能への期待は現在どのような状況にあるのか。調査結果をまとめたアイ・ティ・アール(以下、ITR)のプリンシパル・アナリスト三浦竜樹氏に話を聞いた。

価格とクラウドAIの進展が普及の壁に

「現状を見ると、顧客からのCopilot+ PCへの注目度はやや伸び悩んでいる印象があります」と三浦氏は語る。

三浦氏はその背景を次のように説明する。「当社の調査によると、企業の約75%が標準PCの予算を20万円未満としています。一方でCopilot+ PCは、通常価格では30~40万円程度になります。各種ディスカウントによって25万円であったとしても、Copilot+ PCの上限価格として、25万円以上でも導入可能とした企業は14%(25~30万円未満で8%、30万円以上で6%)程度にとどまるとみています。さらに、メモリーやSSDをはじめとする部材価格も上昇しており、従来の標準PCと同等のスペックであっても予算内に収まりにくくなっています。そのためIT部門は、Copilot+ PCを導入するかどうか以前に、PCのスペックを落として予算を維持するのか、あるいは予算の増額を求めるのかという難しい判断を迫られています」

Copilot+ PCの代表機能として注目される「リコール」も、普及の決め手にはなっていない。「リコールを十分に活用するには大容量SSDが必要となり、それがPCのさらなる価格上昇につながってしまいます。また、画面のスナップショットが保存されることへのセキュリティ面での懸念が、金融や保険など機密情報を扱う企業を中心にあります。加えて、IT部門としても高額な投資を正当化できるほどの生産性向上効果を経営層に示しにくい状況があります。ChatGPTやClaudeなどクラウドAIの進化も著しく、『ローカルでAIを動かす必要があるユースケースは何が考えられるのか』という声も少なくありません。現状ではクラウドAIで十分と考える企業が多く、Copilot+ PCならではの価値が見えにくい段階にあります」(三浦氏)

標準PCの予算と比べたときの価格の高さに加え、導入効果を明確に示しにくいことも、Copilot+ PCの本格導入をためらわせる要因となっているようだ。

導入は進むも活用法は模索中

一方で、Copilot+ PCの導入率そのものは一定の水準に達している。前述の調査では、社内標準PCとして採用している企業が21%、特定の部門や職種、一部のユーザーに導入している企業が25%という結果だった。ただし、社内標準PCとして採用の21%を額面通りに受け取るべきではないと三浦氏は指摘する。「企業規模が大きい企業では、部門や職種、役職ごとに複数の標準PC仕様を設定する傾向があります。今回の調査でも、半数以上の企業が標準PCを複数メーカーから調達していました。従って、Copilot+ PCを社内標準PCとして採用している企業であっても、単一の標準PCとして、全てのユーザーがCopilot+ PCを利用しているというわけではありません」

加えて、導入対象のユーザーやユースケースについて「特定の部門や職種などに導入と回答した企業に導入対象を聞いたところ、IT部門が半数強で最多となり、デジタル推進部門が3割強で続きました。メーカーや販売パートナーからの提案を受け、まずはIT部門やデジタル推進部門で導入し、業務部門での活用方法を模索している企業が多い状況です。Copilot+ PC導入先でのユースケースの自由記述を見ると、ローカルLLMならではのものがほぼ見られず、資料作成や議事録作成などの定型業務支援、音声や動画の字幕をリアルタイムに翻訳する『ライブキャプション』を活用した会議支援、情報整理、情報検索の迅速化など、従来からの業務効率化支援が中心となっています。すなわちCopilot+ PCならではの活用方法が確立されている段階ではなく、多くの企業が実証や評価を進めながら利用シーンを探っている状況です」と三浦氏は補足した。

IT部門やデジタル推進部門から各業務部門に導入が進まない背景として、各業務部門が日常的に利用するアプリケーションそのもののAI化が進んでいるという実態もある。「例えばマーケティングやクリエイティブ職であれば、すでに『Adobe Creative Cloud』をはじめとする専門ツールやマーケティング自動化ツール自体に高度なAI機能が組み込まれており、その処理の多くはクラウド側で完結しています。そのため、処理スピードよりもクオリティの高さが重視される現場において、個別のPCに高いローカル処理性能をあえて求める必要性が見いだせないのです」(三浦氏)

機能別の期待度では、リコールが「やや期待」を含めると6割弱と最も高い評価を得ている。「リコールへの関心は高いのですが、多くの企業でセキュリティポリシー上、利用を許可するかどうかがまだ定まっていません。期待度は高い一方で、運用面の課題も残っています。ただ、経営企画部門のように、営業部門から共有された資料やチャットで送られてきたファイルなど、さまざまな場所に存在する情報を横断的に参照する職種では相性が良いと考えられています。『あの資料はどこにあったか』『誰から共有されたものだったか』といった情報探索に多くの時間を費やしているため、過去の作業履歴や閲覧情報を横断的に検索できるリコールへの期待は比較的高いです」と、三浦氏は話す。

現在の主たる標準PCの価格とCopilot + PCの上限価格
出所:ITR「業務利用PCに関する調査」(2025年6月調査)

AIエージェントが普及の鍵を握る

今後の普及について、ITRでは、まず特定職種から進む可能性が高いとみている。「設計や開発、クリエイティブ職のように、従来からワークステーション級の性能を求めていたユーザーには受け入れられる余地があります。まずはハイスペックPCとしての需要が中心になるでしょう」(三浦氏)

一方で、ホワイトカラー全体への普及には、さらなる価値創出が必要だと三浦氏は語る。「将来的には、アプリケーションやベンダーの垣根を越えて業務を横断的に自動化するAIエージェント機能が重要になると考えています。例えば、Outlookのカレンダーに登録された出張予定を基に、自動でWebブラウザーを開いて移動手段を調べ、その結果を経費精算システムへ入力するといった処理です。ユーザーが細かな指示を出してシナリオを組む、あるいはIT部門がアプリケーション間をAPI連携させて利用させるのではなく、AIが利用者の操作状況を見ながら『この作業を代わりに進めましょうか』と提案するような受動的な支援が求められています。そうした機能が実現できれば、Copilot+ PCは多くのホワイトカラー層にとって価値のある存在になるでしょう」

ITR プリンシパル・アナリスト 三浦竜樹 氏

ITR
プリンシパル・アナリスト
三浦竜樹 氏

もっとも、Copilot+ PCの競争相手はクラウドAIだけではないと三浦氏はみている。「AIエージェントの活用を考えると、実はスマートフォンが有力な競合になります。朝一番のメール確認やスケジュール管理などは、多くの人がPCより先にスマートフォンで行っていることが多いでしょう。常に手元にあり、起動も早いスマートフォンの方が、AIによる支援と親和性が高い可能性があるのです」

現時点では、市場の期待と実際の活用状況との間にはなおギャップが存在する。一方で、AIエージェント機能の進化や具体的な業務効率化事例が蓄積されれば、Copilot+ PCの評価が変化する可能性は十分にある。価格という大きな壁を乗り越え、単なる高性能PCではなく業務変革を実現するプラットフォームとして独自の価値を示せるかが、今後の普及を左右しそうだ。