本記事の執筆・市場調査機関

企業概要:

株式会社ノークリサーチ
25年に渡って、日本の中堅・中小企業のIT活用に関する市場調査とコンサルティングを提供している第三者調査機関。

筆者略歴:

シニアアナリスト 岩上 由高(いわかみ ゆたか) 博士(工学)
ITアナリスト歴15年目。ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ITベンチャー企業数社でシステム開発/運用、プロダクトマネージャ、CTOなどの経験を積む。
そこで培った知見と人脈を生かしながら、幅広いIT活用分野における市場調査とコンサルティングに従事。

現代のIT活用において、クラウドは既に不可欠なシステム形態となっています。とは言え、全てがクラウドに移行してしまうわけではなく、適材適所でクラウドの利点を活かしていくことが重要です。それを実現するためのハイブリッドクラウドやマルチクラウドの必要性について、最新の市場調査データを踏まえながら見ていくことにしましょう。

今後はクラウドからオンプレミスへの回帰が予想される

大企業の先進事例などを見ると、サーバ市場ではオンプレミスからクラウドへの移行が更に加速しているのでは?と感じる方も多いかと思います。ところが、中堅・中小企業も含めた広い視点で見ると、必ずしもオンプレミスからクラウドへの片方向だけの変化ではないことがわかります。

以下のグラフは年商500億円未満のユーザ企業に対し、今後の導入/更新を予定しているサーバ形態を尋ねた結果を「オンプレミスのみ」を導入している場合と「クラウドのみ」を導入している場合の2通りに分けて集計した結果です。

導入/更新を予定しているサーバの形態(複数回答可)

「オンプレミスのみ」の場合には95.7%が今後もオンプレミスを選ぶと回答していますが、クラウドを導入するという回答も53.2%に達しています。つまり、これからは「オンプレミスを継続するが、クラウドも利用する」というユーザ企業が増えると予想されます。

一方、「クラウドのみ」の場合も94.4%が今後もクラウドを選ぶと回答していますが、オンプレミスも55.6%と高い値を示しています。現状は「クラウドのみ」であるにも関わらず、オンプレミスに戻そうと考えるユーザ企業が少なくないわけです。このように昨今のサーバ市場では「クラウドへの移行」だけでなく、「オンプレミスへの回帰」も起き始めています。

「クラウド活用」と「クラウド移行」の混同が大きな課題

では、オンプレミスへの回帰はなぜ起きるのでしょうか?その要因を知るヒントとなるのがサーバ管理/運用における課題を尋ねた以下のグラフです。(n=700)

サーバの管理/運用における課題(複数回答可)

上記のグラフに列挙されているのはユーザ企業がサーバ管理/運用において課題と考える項目のうちで回答割合が高かったものです。これら4つの項目を良く見ると、「クラウド移行を進めたいが方法が分からない」、「オンプレミスとクラウドの使い分けが難しい」、「既存の業務システムが足かせになっている」、「オンプレミスとクラウドの連携ができていない」といったように、いずれも既存の業務システムをクラウドに移行しようとする際に直面しやすい課題であることがわかります。

ですが、既存の業務システムを無理に移行しなくても、クラウドの利点を享受することは可能です。例えば、スマートフォンで予約を受け付けるシステムを新たにクラウド上に構築して、既にオンプレミスで稼働している顧客管理システムと連携するなどの構成が考えられます。予約が殺到した時のアクセス増をクラウドが持つ伸縮性でカバーしつつ、既存のシステム資産を有効活用できます。このように本来は適材適所でクラウドを活用すれば良く、必ずしも全てをクラウドに移行する必要はありません。ですが、「クラウド活用」と「クラウド移行」が混同されてしまっていることによって様々な課題が生じ、結果的にオンプレミスへ戻すケースが少なからず発生しているわけです。

クラウドの利点を無理なく享受できる
「ハイブリッドクラウド」の提案を

オンプレミスとクラウドを両立した「ハイブリッドクラウド」は「クラウド移行」への偏重を防ぎ、適材適所の「クラウド活用」を実現する有効なアプローチです。実はユーザ企業もハイブリッドクラウドの考え方を既に認識しつつあります。以下のグラフはユーザ企業に対して、サーバ導入/更新や管理/運用の方針を尋ねた結果です。(n=700)

サーバ導入/更新や管理/運用の方針(複数回答可)

「クラウドの利点を活かしたシステム構築を進める」と「オンプレミスとクラウドは今後も双方を併用する」の回答割合は2割超となっています。つまり、クラウド一辺倒ではなく、オンプレミスとの両立によってクラウドの利点を活かすことの重要性に気付いているユーザ企業も少なくないわけです。さらに、セキュリティやバックアップといったサーバ管理/運用の一部でクラウドを上手く活用しようとする動きも見られることがグラフから読み取れます。
このようにIT企業側としては無理に全てをクラウドに移行するのではなく、適材適所でクラウドの利点を活かすハイブリッドクラウドの提案をできるようにしておくことが大切です。

役割/用途に応じた「マルチクラウド」の
提案が発展的なIT活用の道を拓く

クラウド活用の提案で押さえておきたいもう1つのポイントが「マルチクラウド」です。現在は多数のIT企業から様々なクラウドサービスが提供されています。では、単一のクラウドサービスに絞る場合と、役割や用途に応じて複数のクラウドサービスを使い分ける場合では、どちらの方が賢い選択なのでしょうか?それを知るヒントとなるのが以下のグラフです。これはユーザ企業に対してサーバ導入/更新や管理/運用の方針を尋ねた結果を単一クラウドのみ利用している場合と複数クラウドを利用している場合に分けて集計したものです。

サーバ導入/更新や管理/運用の方針(複数回答可)

複数クラウドを利用している場合では単一クラウドのみと比べて「コンテナ活用に適したサーバとツールを重視する」、「業務の自動化が進めばクラウド移行も加速する」、「他社とのデータ共有による価値創造に期待する」といった項目の回答割合が高くなっています。この結果は複数クラウドを利用するユーザ企業はコンテナ、自動化、他社とのデータ共有といった一歩先に進んだIT活用に対する意識が高いことを示しています。逆に、IT企業側が「マルチクラウド」の提案を通じて役割や用途を意識したクラウド活用を啓蒙していけば、ユーザ企業におけるIT活用の幅を広げることができるわけです。

※「コンテナ」についてご不明な方は、こちらをご覧ください

「クラウドオンリー」や「単一クラウド」ではない
様々な選択肢を用意しておこう

このように、ユーザ企業にとって望ましい状態は全てをクラウドに移す「クラウドオンリー」や無理にクラウドサービスを1つに絞る「単一クラウド」ではなく、適材適所でクラウドの利点を享受できる「ハイブリッドクラウド」や「マルチクラウド」であることがわかります。こうした動きに応えられるように様々なパターンのクラウドを提案できるように備えておきましょう。

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オンプレミス(HCI)製品はこちらをご参照ください