Copilot(旧称 Bing Chat Enterprise)を使ってみよう

Microsoft は2023年11月15日から開催されている Microsoft Ignite(下記参照)にて、Bing Chat と Bing Chat Enterprise を「Copilot」に名称変更すると発表しました。
また以下についても発表しています。

  • Copilot (旧称 Bing Chat および Bing Chat Enterprise) の一般提供が12月1日に開始されること
  • 将来的には Entra ID(旧称 Azure AD)アカウントのユーザーに、今までの Bing Chat Enterprise の機能(組織の商用データの保護)を追加費用なしで提供する予定であること
  • 第一段階として近日中に Microsoft 365 F3 でも組織の商用データの保護が利用できるようになること
  • Copilot 専用の下記Web サイトが公開されたこと

新しい「Copilot」では、サインインしているアカウントによって組織の商用データの保護(今までの Bing Chat Enterprise の機能)が利用できるかどうか、動作が切り替わります。個人用アカウント(Microsoft アカウント)でサインインしている場合は、今までの Bing Chat と同様データの保護はありません。

本記事はこの発表前に作成しているため、旧称の「Bing Chat」・「Bing Chat Enterprise」の表記をしています。Bing Chat は個人用アカウント(Microsoft アカウント)でサインインした Copilot、Bing Chat Enterprise は組織アカウント(Entra ID アカウント)でサインインした Copilot と読み替えてください。

2022年11月の ChatGPT の公開以降、大規模言語モデルを利用した対話型生成 AI のサービスが注目を集めています。

生成 AI

「プロンプト」と呼ばれる入力に応答して、テキストや画像、音声、プログラムコードなどを生成することができる人工知能の一種。

Microsoft は2023年1月に ChatGPT の開発元である OpenAI 社に100億ドルの出資を行い、筆頭株主になりました。これに伴い Microsoft は自社の製品やサービスに OpenAI の技術を組み込んで提供することを進めています。
Microsoft の Web 検索サービスである Bing には ChatGPT と同様の対話型生成 AI である Bing Chat を搭載しました。この Bing Chat の企業向けバージョンが Bing Chat Enterprise です。
この記事では、一般向けの Bing Chat と Bing Chat Enterprise は何が違うのか、Bing Chat Enterprise と Microsoft 365 に組み込まれる Microsoft 365 Copilot とは何が異なるのか、Bing Chat Enterprise で何ができるのか、どのようにすれば利用できるのかを解説します。

Bing Chat Enterprise は記事執筆時点(2023年11月)ではプレビューとして提供されています。

Bing Chat と Bing Chat Enterprise の違い

Bing Chat と Bing Chat Enterprise はいずれも OpenAI の大規模言語モデルである GPT-4 や DALL-E3 を利用する生成 AI チャットですが、大きな違いがあります。
Bing Chat Enterprise ではユーザーと AI のチャット(入力と応答)は記憶されず履歴としても残りませんが、一般向け Bing Chat では Bing の検索キーワードと同様、チャット履歴が保存されます。また保存された履歴は以下の図の赤囲みの部分のように他のユーザーに「おすすめ」として表示される場合があります。

このようにチャット内容が再利用されるため、Bing Chat チャットで下記の例のように「新商品のキャンペーン企画」といった社外秘にするべき情報を取り扱った場合、それが外部に流出する可能性(危険性)があります。
このような危険性は、Bing Chat だけでなく ChatGPT でも同様です。

これに対して Bing Chat Enterprise では、チャット内容は保存されず再利用もされないので、企業内・組織内の情報を含めたチャットを安心して行うことができます。
Bing Chat Enterprise ではこのことを示すため、以下のように「保護済み」「個人と会社のデータが保護されています」と表示されます。

Bing Chat Enterprise と Microsoft 365 Copilot の違い

Bing Chat Enterprise と Microsoft 365 Copilot はどちらも同じ大規模言語モデル(GPT-4)を利用していますが、大きな違いがあります。

Microsoft 365 Copilot は組織の Microsoft 365 テナント内で提供されるサービスです。

そのため Microsoft 365 Copilot で利用される大規模言語モデルは Microsoft Graph を通じてテナント内の組織のデータ(Microsoft Graph で取得できる組織やユーザーの情報、OneDrive / SharePoint / Exchange などの保存データ)に直接アクセスすることができます。

これに対して Bing Chat Enterprise は組織の Microsoft 365 テナント外で提供されるサービスなので、Microsoft 365 Copilot のように組織のデータにはアクセスできません。

こうした違いにより、Microsoft 365 Copilot では

  • 「〇〇さんがXX月ZZ日のミーティングで共有したプレゼンテーションを要約して、その要約を△△さんにメールで送信してください。」
  • 「□□さんから来たメールで、〇〇を話題にしているものだけ△△さんに転送してください。」

といった、組織内のデータを直接参照する作業を行わせることが可能になります。
このような作業は、組織のデータに直接アクセスできない Bing Chat Enterprise では行えません。

また Microsoft 365 Copilot では Microsoft 365 のサービスやアプリの画面内にチャット欄があり、直接 AI が利用できます。このときサービスやアプリケーションで表示・編集しているファイル(Word 文書や Excel ブック、PowerPoint プレゼンテーションなど)を対象にした要約や分析、ファイル内容の生成などが行えます。
これに対して Bing Chat Enterprise ではチャットで明示的に入力したデータや Edge で表示しているページのデータだけ読み取ることができ、これらのデータを元にした内容の要約や分析、生成が行えます。

Bing Chat Enterprise でできること(ChatGPT との違い)

Bing Chat Enterprise は ChatGPT や一般向け Bing Chat と同様に、ユーザーからの入力(チャット)を解釈して、AI が持っている知識を利用して情報生成(質問への回答、情報の要約、文章や画像の創作)を行ってくれます。
以下の例では新商品の発売記念キャンペーンのアイデアを3つ生成させています。

Bing Chat・Bing Chat Enterpriseは ChatGPT に比べて以下のようなメリットがあります。

  • 最新の大規模言語モデルがすぐに利用できる(ChatGPT では有償契約が必要)。
  • ChatGPT は記憶済みの情報のみ利用して情報生成を行うが、Bing Chat・Bing Chat Enterprise は記憶済みの情報に加えて Web 検索していた情報も利用して情報生成を行う。
  • Bing Chat・Bing Chat Enterprise はブラウザー(Microsoft Edge)のサイドバーから利用できる。
  • Bing Chat・Bing Chat Enterprise は Windows 11 の Copilot in Windows から利用できる。

Bing Chat・Bing Chat Enterprise では最新の大規模言語モデルである GPT-4 や DALL-E3 を追加費用なしで利用できます。
これらの大規模言語モデルは ChatGPT で利用されているものと同一です。

Bing Chat は無償で利用できます。
Bing Chat Enterprise は以下のライセンスのユーザーであれば追加費用なしで利用できます。

  • Microsoft 365 E3 / E5
  • Microsoft 365 A3 / A5(教員向け)
  • Microsoft 365 F3(近日中に対応予定)
  • Microsoft 365 Business Standard / Business Premium

また Bing Chat Enterprise は検索サービス(Bing)の機能を利用できるので、チャットに含まれるキーワードを Web 検索して、その結果を反映させた回答を行います。以下の例では「ダイワボウ情報システム」や「DISわぁるどin姫路」という Web 検索を行って、その結果を利用した回答を生成しています。また利用した情報の URL もリンクとして示してくれます(赤囲みの部分)。

さらに Edge のサイドバーから Bing Chat Enterprise を利用すると、Edge で表示中のページを AI に参照させることもできます。以下の例では表示中のページの要約を生成させています。

Web ページだけでなく PDF ファイルを表示している場合でも、Bing Chat Enterprise による要約を利用できます。以下では再イメージング権についての Microsoft ボリュームライセンス簡易ガイドのPDFファイルを要約させています。

このように Bing Chat Enterprise を Microsoft Edge と組み合わせて利用すると、AI により多くのことを行わせることができます。

Windows 11 に搭載される Copilot in Windows(2023年11月時点ではプレビュー)から Bing Chat Enterprise を利用することもできます。

Bing Chat Enterprise の仕組み

Bing Chat Enterprise は以下のような仕組みで動作します。

  1. Bing Web ページ(bing.com) / Edge サイドバー / Copilot in Windows などのチャット入力欄がユーザーに表示されます。
  2. Microsoft Entra ID(旧称 Azure AD)へのサインインにより Bing Chat Enterprise のライセンスが確認されます。
  3. チャット入力とそれに対する出力が、Bing Chat Enterprise サービス内のチャットセッションとの間でやり取りされます。この通信はすべて TLS 1.2 以上で暗号化されます。
  4. チャットセッションはチャットオーケストレーターとやり取りしますが、ユーザー情報やユーザーのテナントの情報は提供しません。
    チャットセッションのデータは AES-128 で暗号化されます。ユーザーとのセッションが終了すると、チャットセッションは破棄されプロンプトや応答のデータも削除されます。
  5. チャットオーケストレーターはチャットセッションから送られてきたチャットの内容を元に、大規模言語モデル(AI)へのプロンプトと Bing 検索へのキーワードを生成し、送信します。
  6. 大規模言語モデルはチャットオーケストレーターからのプロンプトに応答します。
  7. Bing 検索はチャットオーケストレーターからのキーワードに対する検索結果を返します。

チャットオーケストレーターにはチャットを入力したユーザーの情報・テナント情報は送られませんので、大規模言語モデルや Bing 検索の利用はすべて匿名で行われます。
またライセンスの確認に Entra ID が利用されますが、Bing Chat Enterprise からテナント内のデータ(Microsoft Graph データ、OneDrive / SharePoint / Exchange などの保存データ)にアクセスすることはできません。
このような仕組みで、Bing Chat Enterprise は組織のデータを保護し、検索や大規模言語モデルの利用での匿名性を確保しています。

Microsoft 365 Copilot を先取り体験

先に説明したように Bing Chat Enterprise と Microsoft 365 Copilot は異なる部分がありますが、同じ AI(大規模言語モデル)を利用しているため、Bing Chat Enterprise を利用して Microsoft 365 Copilot で提供される機能の動作の一部を先取り体験することが可能です。

Microsoft 365 Copilot は一部の大規模契約の顧客テナントに対して2023年11月1日から提供が開始されています。
それ以外の契約形態のテナントへの提供開始時期は未定です。

Bing Chat Enterprise は組織のデータに直接アクセスできませんが、利用者が明示的に与えれば、それを利用することは可能です。

例えば、OneDrive for Business や SharePoint にあるファイルを開いてその内容をコピー&ペーストで Bing Chat Enterprise のチャット欄に貼り付ければ、その内容をAIに分析させたり要約させたりできます。
※ チャットに入力できるのは4,000文字までです。

また Edge のサイドバーで Bing Chat Enterprise を利用すれば、Edge で表示しているページを Bing Chat Enterprise に読み取らせることができます。そのため OneDrive for Business や SharePoint に保存されているPDFファイルをブラウザーで開くと、Bing Chat Enterprise から利用可能になります。
以下の例では SharePoint Online に保存したファイルを開いて、サイドバーの Bing Chat Enterprise で要約を作成しています。

また Bing Chat Enterprise では Microsoft 365 Copilot のようにドキュメント(Word 文書や Excel ブック、PowerPoint プレゼンテーション)を直接生成することはできませんが、以下の例のようにテキストで箇条書きや表を作成させることは可能です。
ここでは「オンラインマーケティングの成功パターンを4つ、表にまとめてください」と指示して、表形式で回答を出力させています。表の部分の右上の Excel アイコンをクリックすると、この表を Excel で編集し、ブックとして保存することもできます。

このように今すぐ利用できる Bing Chat Enterprise を使って、Microsoft 365 Copilot の機能の一部を先取りで体験することができます。

Bing Chat Enterprise を利用するには

Bing Chat Enterprise は以下の Microsoft 365 サブスクリプションのライセンスで利用できます。他の Microsoft 365 サービス / アプリと同様にユーザーライセンスとなっています。

  • Microsoft 365 E3 / E5
  • Microsoft 365 A3 / A5(教員向け)
  • Microsoft 365 F3(近日中に対応予定)
  • Microsoft 365 Business Standard / Business Premium

Bing Chat Enterprise がテナントレベルで展開済みかどうかは、以下のページにアクセスして確認してください。

また Bing Chat Enterprise のライセンスはユーザー単位で有効/無効にできます。他のライセンスと同様に、Microsoft 365 管理センターの [アクティブなユーザー] でユーザーごとの設定を行えます。

まとめ

Bing Chat Enterprise は企業がセキュリティやコンプライアンスの面で安心して利用できる生成 AI チャットサービスです。チャットの内容が保存されたり再利用されたりすることが無いので、チャット内で企業内の情報に触れてもそれが外部に漏れることはありません。
Microsoft 365 E3 / E5・A3 / A5(教員向け)・Business Standard / Business Premium・Microsoft 365 F3(近日中に対応予定) のユーザーであれば追加費用なしに最新の大規模言語モデル(GTP-4)を利用した高機能な Bing Chat Enterprise の AI チャットが利用できます。Bing Chat Enterprise では質問への回答だけでなく情報の要約、資料(文章や表など)の生成を行わせることが可能です。
Bing Chat Enterprise を活用して、日々の業務をぜひ効率化してください。
Bing Chat Enterprise が利用できる Microsoft 365 ライセンスの導入・アップグレードにつきましては、当社担当営業までお気軽にご相談ください。

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